「ふぅ〜疲れたぁ〜」
真っ白い湯気の立ち込める大浴場。
その入口で星矢は大きく体を伸び上がらせた。
しかし言葉とは裏腹に彼には疲れたような様子はなく、むしろいい汗をかいたなあくらいの爽快さが伺える。
「あれだけ動き回ったんだ。無理もない。」
「今日の修行は結構厳しかったもんね。」
苦笑しながら紫龍と瞬が星矢の後に続いて入ってきた。
ここは聖域にある聖闘士専用の大浴場。
それだけに広さは常識はずれに広く、所々の装飾も豪華だ。
しかもいつでも聖闘士たちが修行の汗を流せるようにというアテナのはからいで常に湯がはられている。
いつもなら多くの聖闘士たちで賑わっている大浴場だが、今日は珍しく星矢たち3人の他には誰か入っている様子はなかった。
しかし…………
「あ、カミュ。いらっしゃったんですね。」
広い浴槽の片隅に見えた紅く長いさらりとした髪。
今は頭の上でひとまとめにしてある。
そんな特徴的な髪の持ち主はこの聖域には水瓶座のカミュしかいない。
それを見越した瞬が声をかけた。
どうやら先約がいたようだ。
「あぁ、おまえたちか。」
ゆっくりとした優雅な動作で振り返ったカミュがにこやかに星矢たちに微笑みかけた。
(……ん?)
紫龍と瞬の2人は同時に違和感を感じた。
あのクールで知られるカミュがやけに自分たちに微笑みかけてくるのだ。
しかも微妙に表情は引き攣っており、逆に畏怖さえ感じられる。
何か自分たちは悪いことをしてしまったのかと2人が不安に思ってきた時だった………
「お、氷河じゃないか。どうしたんだよ、カミュにぴったりくっついて。しかも顔真っ赤だぞ。」
星矢がカミュの影に隠れていた氷河を見つけてからかいながら声をかけた。
「……………」
しかし氷河の反応はない。
よく見てみると氷河はカミュに後ろから抱っこされているような格好だった。
「……???」
カミュと氷河は師弟の関係。
それにしては仲睦まじ過ぎる2人の体制に星矢たちの頭にははてなマークが飛び交っている。
「今氷河は眠っていてね。こうして私が支えてあげているんだよ。まったくしょうがない弟子だ。あれくらいの修行で眠ってしまうのだから……。」
「……っふぁ!!」
そう言いながらカミュがふと動いた瞬間氷河の肩がビクリと揺れた。
それと共にやけに艶っぽい氷河の声まで聞こえた。
「なんだ、やっぱり起きてるんじゃ…………」
「せ、星矢!やはり俺達は後から入ろう!!」
「そ、そうだね。そうしよう。」
「どうしたんだよ。急に。」
星矢が再び氷河に話し掛けた瞬間、カミュの鋭い眼差しを察した紫龍が星矢の腕を掴み、半ば引きずりながらこの場から出ていこうとする。
場の空気を察した瞬も後に続いた。
まだ事の次第がよくわかっておらず紫龍と瞬の突然の行動に納得のいかない星矢はなお抗議しようとするが、問答無用で出口まで連れて行かれてしまった。
「どういうことだよ。俺達まだ体も洗ってないんだぜ。なのに………」
「まぁまぁ。ここは2人に譲ってあげよう?ね?」
苦笑しながら不満げな星矢を瞬はなだめる。
「だからどうしてだよ。なぁ紫龍?」
「な///俺にきくな!!」
さっさと服を着た紫龍は顔を赤くしながら足速に出ていってしまった。
「もぉなんなんだよ〜。」
クスクスと笑う瞬を尻目に星矢は盛大に頬をふくらませたのだった。
back