抵抗もむなしく床に倒された。
左右から手足を押さえつけられて身動き一つできない。
男たちに散々暴行を受けてできた傷の上からも容赦なく押さえつけてくるため、激痛が押し寄せてくる。
「震えてんな。」
耳元で男が嘲笑うように囁いた。
その生温かい息が氷河の耳に当たる。
(――――気持ち悪い)
自分を見下ろす男たちの視線に吐き気を覚えた。
痛みと恐怖と嫌悪感でだんだん目が潤んでくる。
しかしここで泣いてたまるかと歯を食いしばり必死で堪えた。
「早いとこヤっちまおうぜ。」
言うが早いかいきなり氷河の下着とズボンを脱がしはじめた。
「な、なにす………っ!!」
突然氷河の思いもしなかった行為にびっくりして手足をばたつかせるがあっさりねじ伏せられてしまう。
しかし、男の手がズボンに伸びてきたことに氷河は嫌な予感を覚えた。
――尻になんか突っ込まれたんだってさ。
ふいに誰かがいっていた言葉を思い出した。
(イヤ…ダ………)
男の手が氷河のズボンにかかった。
(ヤメ………テ……………)
ファスナーを下ろす音が響く。
(ダレカ………)
引きずり下ろすべく、男の手にグッと力がはいった。
「ひっ………!!」
瞬間、
氷河から恐怖のあまり声にならない悲鳴がでた。
『助けて!!!!!!!!』
「な、なんだテメェは!!」
突然、扉のほうからものすごい音がしたかと思った瞬間、男たちの動揺した声が聴こえた。
出口で見張りをしていた男が吹雪にでもあったかのように全身真っ白になって転がっている。
意識を失っているのか、死んでいるのか…男はピクリとも動かない。
「……そのこを放してもらおうか。」
騒然とした場に落とされた言葉。
突然の侵入者は底冷えするほど冷たい目をしていた。
それに呼応してだんだんと肌につくほど辺りの温度が下がっていくのを感じる。
もしかしてこのまま凍えてしまうのではという危機感が男たちを襲う。
しかし、今は夏だ。
ありえない。
その異様さにあたりは静まり返った。
「聞こえなかったのか。」
「こいつやべぇぞ!!」
「ヒィィ―――!!!!」
「化け物だ―――――!!!!」
口々に罵声を浴びせながら男たちは我先にと逃げ出していった。
途端、独房に満ちていた冷気が和らいだ。
「君、大丈夫か?」
優しく問いかけられた。
耳にすうっと入っていく心地よい声だ。
(俺、助かった……?)
そう思った瞬間、堪えていた涙が嗚咽とともに次々と溢れてきた。
氷河は泣き虫だった。
自分でも嫌になるほど。
幼い頃はそれはもうよく泣いて母を困らせていた。
しかし、母を失ってからはもう泣かないと心に決めてどんなつらい訓練でも必死に耐えた。
再び母に逢えることを夢みて。
それでも泣きたくなると氷河は物陰で人知れず泣いた。
もう誰にも涙は見せまいと。
なのに…………
押し寄せてきた涙は止まる所を知らない。
「あ…あ………。」
全身が震えている。
何か言葉を紡ごうとしても歯がカチカチというだけでまともに話せない。
それが自分はこんなにも怯えているのかと思い知らされているようで情けなかった。
今の自分の姿はみっともなく怯えきっているのかと思うとまた涙が溢れた。
もう泣かないと決めたのに。
結局また泣いてしまう。
(マーマ、マーマ、マーマ………。)
どうしようもなく悲しくなったときや寂しくなったとき、いつのまにか心の中で愛しい母を呼んでいた。
今の氷河には母しか救いを求められる存在はいないから。
母だけが氷河の全てだから。
「マーマぁ…………」
か細い声でポツリと呟いた時だった。
ポンと氷河の頭に手がのせられた。
驚いてふと上を向くと先程氷河を助けてくれた人がいた。
しかし、氷河の視界は涙でぼやけてはっきりと見えなかった。
ただぼんやりと見えるその人の顔は慈愛に溢れている事はなんとなくわかる。
頭から伝わるその人の温もりが酷く心地よい。
……なぜだろう。
いつまでもこのまま触っていて欲しいと思ってしまう。
(あ………)
すうっと震えが治まっていくのが分かる。
心からの安堵が氷河を包んでいく。
もう大丈夫……そう感じた瞬間、瞼が重くなっていった。
閉じゆく視界の中、最後に目の前が紅い光に満ちた気がした。
こんな地下のほの暗い場所に射すはずのない光。
紅く、温かそうな………
それは氷河がよく知っているもののように感じた。
しかしそれが何なのか思い出せない。
(…何だっけ?)
そう思った瞬間、氷河の意識は深いところへ落ちていった。
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