そこは澱んだ空気で充満していた。
ろくに換気もされていないせいか、はたまたそこが人目に付かない地下にあるせいか………
いずれにせよ、決して良い場所とはいえない。
ここには長くいたくない。
自然にそう思わせる場所だった。


「っ……………ん。」

ふと身動ぎした時、全身に走った激痛に息が詰まった。
あの後男たちに引きずられていった氷河は仕置きだといって散々殴る蹴るの暴行を受けた。
大の大人に容赦なくだ。
正直こうして生きているのが不思議だった。
やはり聖闘士となるべく毎日訓練を受けているだけはあるのか。
それにしても………

(……あれ?)

重い身体をゆっくりと起こし、辺りを見回す。
天井近くの明かりとりの窓から星空が見えた。
外がやけに静まりかえっている様子から察するに、日が暮れて随分たっているように感じられる。
しかし、違和感はそこにあるのではない。
氷河はまだ独房の中にいた。
仕置きを受けた後は気を失っている間に宛がわれた部屋に戻されているのが常だ。
だが、今日は先刻まで散々打ちのめされていたあの独房にまだいる。
それが何を意味しているのか、幼心に氷河は察してしまった。


それは一月前のことだった。
訓練に付いていけなくていつも叱責を受けていた仲間の一人が独房に連れて行かれたまま2日経っても帰ってこないという変事が起きた。
邸から逃げたのではないかという噂が立ち始め、果ては酷い暴行の末に死んだのではという噂までたった。
そんな噂がたつものだから子供たちの中で一斉に不安が募った。
そして、いなくなってから3日後の朝、そいつは帰ってきた。
目は虚ろで焦点は合っておらず、その目には幾筋もの涙の乾いた後が見受けられた。
服はヨレヨレで髪もボサボサ。
しかもそいつから氷河たちが嗅いだことのないすえた匂いがする。
あまりの彼の無惨な姿に見かねた一人が、四肢を投げ出し床に打ち捨てられているそいつを抱き起こそうとそいつに触れたときだった。
突然そいつが発狂し出した。
やめてくれ、助けてくれと叫ぶ彼を一同は呆然と見るしかなった。
しかし、見るに耐えられなくなったのか一人また一人と子供たちは泣き出した。
その騒ぎに気づいた大人が再びそいつを連れ出し、事は収まったが。
それ以来、そいつは帰ってこなかった。
そして、このことを機に独房に連れていかれて何日も帰ってこない子供たちが相次いだ。
帰ってきた子供たちは皆必要に何かに怯えているようになり、人との接触に恐れをなすようになっていた。


ギイィ――――

重く閉ざされた扉が開いた。
数人の大人たちがずかずかと入ってくる。

「お、もう起きてんのか。」

その内の一人が氷河に気づき近づいてきた。

(う…そ…………っ)

まさか自分もあいつらと同じ目に合わされるのではないか。
察した氷河はやつらから逃れようと後ずさるが狭いここではすぐに壁に背中がつき、追い詰められた。
男たちがずらりと氷河を取り囲む。

「しかし、ほんとにいいんですかね、こんなことして。」

「け、いいんだよ別に。報告書には適当に病気で寝込んだとか書いときゃ、ばれねえよ。あの会長さんは忙しすぎてそんなこと気づきゃしねって。」

言い様、男は獲物を見るように舌なめずりをした。

「おい、そいつを押さえておけ。」


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