青々とした空、輝く太陽光、澄んだ空気―――
それらが全て人によって作られたものだとしても、アスランは純粋に美しいと思った。
このプラントの自然は地球にあるものを再現しているらしい。
しかしアスランは地球へ行ったことがないので、本当のことかは定かではない。
というよりも、もう地球は無くなっているので今更確認の仕様が無い。


C.E.01――。
地球は長年蓄積されてきた環境汚染が原因で突如、謎の爆発を起こしたのだ。
それを事前に察知していた人類は、早くに宇宙移住を開始し、生き残ることができた。
地球というかけがえの無いものを失いながらも人類は生きていくのだが、人類存亡を揺るがす大事件が起こる。

C.E.70――。
ディセンベル市のたった1つのプラントを残してその他全てのプラント、及びスペースコロニーが消滅してしまったのだ。
その残ったプラントというのは、今アスランが住んでいるプラントだ。
事件が起きた時はすごい騒ぎになったものだが、今ではなりを潜めて不思議とこれまでと変わらない平和な暮らしをしている。




ただアスランが気にかかることがあるとすれば幼馴染のキラのことだ。
事件当時、アスランはキラが住んでいる月のコペルニクスとは違う、このディセンベルのプラントに住んでいたので助かった。
しかし、彼は…。
それでもなぜかアスランは幼馴染のキラが死んだようには思えなかった。
今でもどこかで元気にしているのではないかという漠然とした思いがあった。
なぜかはわからないが……。



「どうしたの?ぼうっとして。」

母の愛車のオープンカーに乗り、荒い風に吹かれながらそんなことを考えていると、運転席の母レノアがぷっと吹き出しながら聞いてきた。

「いいえ、別に……。」

まさか人類の歴史について考えていましたなんて言ったら、おもしろいこと好きな母になんてひやかされるかわかったものではないのでアスランはそっけなく返した。
いや、きっと「アスランがそんな堅苦しいこと考えてるなんてすぐに想像できて逆におもしろいわ。」なんて意味不明なことをいうのだろう。
昔からそういうノリについていけない癖があるアスランはいつもなにかと母にはいじられてしまう。
もしここにあの幼馴染がいたら同じ属性同士、うまく会話が弾むのだろうなと漠然と思った。

「う〜〜〜〜ん……わかった!トイレに行きたいんでしょ?」

「はぁ?!ていうかなんでそうなるんですか!!」

「えっと、なんとなく??」

などと運転中にもかかわらずこちらを見ながら冗談を言う母に眩暈がしそうだった。
勘弁してくれ。

「大丈夫よ。心配しなくても。」

先程までの空気と一転して母が心配したように言った。

「お父さんが急に呼び出すなんて今までになかったことだから緊張してるのかもしれないけど。」

そういう母の言葉に、アスランはそういう自覚はなかったが、毎日多忙で家にほとんど帰らない父からの呼び出しにやはり緊張しているのだろうかと思い直した。
そのうえ、父とは小さなときから離れて母と二人で暮らしていたので、一緒に住むようになった今でも面識が少ないため、父はアスランにとって近寄りがたい存在だった。
自分の父親の筈なのに…



ドォン!!!

そうしてしばらくアスファルト道を走っていると、後方で地を揺るがすほどの轟音が響いた。
とっさのことに驚いてアスランは後方に視線をおくろうとしたが、アスランの意識はそこでぷっつりときれてしまった。





「………ん」

ゆっくりとアスランの意識がはっきりとしてきた。
まだ頭がよく働いていないままにふと足を動かしてみる。

「…っ!!」

少し軽い痛みがある。
多分かすり傷だろうと目星をつけたところで完全に頭が働きだした。
おそらくさっきの轟音は何かが爆発したかのような音だった。
自分たちはきっとそれに巻き込まれたのだろう。
そこまで考えて、働き出した頭で見た光景にアスランは絶句した。
先程まで自分が乗っていたはずのオープンカーは横転し、ガラスは割れ、所々に傷がついている。
とても乗れそうにない。
他の車も似たような状態だった。

「ア…スラ……」

ふとアスランの後ろの方からよく知っている声がした。
母だ。
声が弱々しい。
きっと怪我をしているのだろう。
不安になったアスランはすぐさま声がしたほうへと近寄った。

「母上、大丈夫ですか?しっかり……」

「いたっ……」

とっさに母を抱き起こそうとしてアスランは誤って肩の傷口に触れてしまった。
触れた手にぬるっとした感触が残る。
そしてその感触に驚いたアスランは慌てて引っ込めた手を見て、言葉を失った。
抱き起こした母の、傷を負った肩から流れる血が……
母の体中を駆け巡っている真紅の血が……

青かった―――。

「……!!!!」

有り得るはずの無い状況にアスランは驚愕した。
しかし、血は溢れ出るばかりで…
このままにしておくわけにもいかないので、アスランはとりあえず助けを呼びに行くことにした。
その途中で見かけた怪我をしている人たちから流れ出ている血も母と同様に血が青い。
その光景は青いペンキをばら撒いたかのようだった。


〈血が…青い?〉

そんな非常識なことがあるはずがない。
さっきの爆発といい、血が青いことといい何がなんだかわからない。
アスランは混乱した思考を振り切るように走った。

〈これは…………夢か?〉

現実主義のアスランがそんな普段なら考えもしないようなことを考え出したときだった。

「君が…アスラン・ザラ君だね?」

落ち着き払った静かな声でそうアスランに問う声がし、足を止めた。

「君が今混乱しているのはわかる。でも、ここは危険なんだ。どうか、僕と一緒にきて欲しい。」

焦ったようにそう目の前の青年はいい、アスランの腕を掴んだ。。
その強引な態度にさっきまで混乱していた思考がいつもどうりに戻った。

「ちょ、ちょっと待ってください。急になんですか?!だいたいここが危険って……」

「今は説明してる暇がない。でも君が僕と一緒に来てくれるのだったら、後でちゃんと説明するよ。」

そういって、アスランをまっすぐ見据えてきた。
その視線に鼓動がどくんと脈打つ。
どこかで見たことのあるような懐かしさがあった。

〈キ…ラ……?〉

それは突然頭に浮かんだ大切な幼馴染の名前で、二年前に死んだはずのアスランの恋人の名前だった。
なぜその名が浮かんだのだろうか?
しかしよく見てみると目の前の人は少しキラに似ている気がした。
茶がかったさらさらとした髪、菫色の瞳――。
それは自分のよく見知った幼馴染のものと本当によく似ている。
ただ違うのは纏う雰囲気と身長くらいか。
自分よりも大人びた雰囲気があり、身長も自分より少し高い気がする。
そんなことを考えて自然と顔が強張ったアスランを見てか、ぷっと目の前の青年が吹き出した。

「な〜んで人の血が青かったりしたのかな〜?」

それまで緊張したような雰囲気が一転して彼がにこやかに問いただしてきた。
なぜかその態度が子供扱いされたようで癪にさわった。

「さあ?」

本当はそのことについてすごく気になったが、わざとそっけなく答えた。
それと同時に踵を返す。
はっきりいって付き合っていられない。

「すみませんが、あなたとは一緒に行けません。それに、母が負傷しているんです。助けを呼ばないと。」

そう早口で言うと、さっさと歩き出そうとした。

「見せてあげるよ、君に。この世界のすべてを…。」

突如、声が響いた。
その言葉にとっさに動きを止め、彼へと振り向く。
すると、またあの瞳がこちらを見据えてきた。
視線が逸らせない―――。

「だから、お願い…!!」

ふいにこちらへ唇が触れ合いそうなほど近づいてきた彼が切羽詰ったように言葉をつむぐ。
そのしぐさにどきりとしたアスランが顔を赤らめながらふいに身を引いた。
その瞬間、プシュッという空気の抜ける音がした。
その音が何なのか確認する前にアスランを酷い睡魔が襲った。

〈睡眠ガス……?!〉

しかし、アスランが気づいたときにはもう遅かった。





「アスラン………やっと会えたね、やっと……。」

薄れゆく意識の中でふいにそんな彼の優しい声が聴こえたような気がした。

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