プラント、アプリリウス市―――。
そこは今、夜を表す時刻だった。
そのため、必然的に辺りは暗くなり、外の星々の光が見えるようになる。
それは人間が作り出したものではない、宇宙が作り出したそのままの景色だった。
「シン……」
その美しい景色を飽きることなく見つめる少年シンは名を呼ばれてもなお天を見つめていた。
時折吹く風がシンの髪を小さく揺らす。
「あまり外に出ていると体に良くない。また発作が起きると心配だ。」
金の艶やかな髪を肩までゆったりと伸ばしたレイが不安そうに目を伏せた。
すると、レイに気づいたのかシンがゆっくりとこちらを振り返った。
シンの印象的な紅い瞳が星たちに照らされ、神秘的に光っている。
「……もうすぐ…もうすぐ…目覚めのときが…………っ!!」
「シン?!」
先程まで穏やかに話していたシンが急に苦しみだした。
〈発作だ!!〉
頭で直感するよりも早く、レイはシンのもとへ駆け出していた。
「シン!!大丈夫か?」
声をかけながらレイはうずくまっているシンを抱き起す。
「うぁ………あぁ……ああああぁぁぁぁ!!!」
苦しみのあまり悲痛な声を出し、手足をばたつかせ暴れるシンを宥めるようにレイはシンを掻き抱いた。
「シン、大丈夫だ。…俺は………俺はここにいるから!!」
一刻も早くシンを発作から開放してあげたい一身で必死にレイは言葉を紡いだ。
それがただの自分の気休めにしかならないということは百も承知だったが。
すると、この声が届いたのか、シンが暴れる腕をレイの背中にまわしてきた。
しかしシンの腕はまだ抑えが利かないのか荒々しく、その手はレイの衣服に深い皺がつくまですがるように握り締めた。
「くっ!!」
シンに握り締められるいる箇所が痛み、レイは思わず呻いた。
だが、ただシンを救いたいと思うレイにはそんな痛みどうということはない。
むしろシンの痛みがそれで治まるのならいくらでもすがって欲しかった。
しばらくそうしていると、少しずつだがシンがおとなしくなり、呼吸も落ち着いてきた。
「レイ……もう大丈夫だから。」
だからもう離してくれといつものように苦笑交じりにシンが抗議する。
その声に安堵したレイがそっとシンを離した。
「本当にもう大丈夫なんだな?もう痛くないか?あとでちゃんと検査したほうが……」
「だぁかぁら!!大丈夫だって!!………それより…」
それまであんまりしつこいレイにむっとしたシンの表情が、それまでと一転して真紅の瞳を揺らしながら真剣な表情でレイを見つめた。
「…もうすぐ……目覚めのときがくるよ。」
「そうか……やっと…お前を救ってくれる人が現れるんだな。」
シンの頬に優しく触れながらレイは微笑んだ。
それにこたえるようにシンがその手に擦り寄ってくる。
そして、シンはもう一度プラントの外から見える星々の光を見つめた。
ようやくアスランと接触し、あと少しでここから出られるという矢先に起こった不思議な現象。
アスランの突然の変貌…そしてまるで乗っ取られたかのように独りでに動き出すシャトル…
ほぼ同時に起こったこの異変は青年の心を不安へと駆り立てた。
とりあえず機器のスイッチやハンドルを闇雲に動かしてみるが、全く反応は無い。
「なんで!!どうして勝手に動いてるんだよ!!」
バンッ!!!
このどうしようもない現状に苛立ちを覚えた青年は機器を力の限り両手で叩き付けた。
それでも尚シャトルは動き続け、アスランも正気に戻ることはない。
「あと少しなんだ………あと少しなのに………!!」
言葉と一緒に悔し涙さえ流れてきそうだった。
そうして成す術も無くシャトルの導くままに進んでいると、ここディセンベルの評議会のある建物の上空でシャトルが止まった。
確かここにはアスランの父パトリックがいるはずだ。
その上空に静止したままのシャトルが突然光に包まれた。
そして一秒とたたない間に光は消え、その代わりにあたりの景色が一瞬に変わっているのに青年は気がつく。
今まで、自分たちを乗せたシャトルはディセンベルの夜空を飛行していた。
それが今は澄み切った青空の中にいる。
またしても訪れた異変に戸惑いながらも、アスランの様子を伺うべく青年は後ろを向いた。
「………アスラン?」
いない。
自分のすぐ後ろの席に座っているはずのアスランが。
機内の隅々に目を這わすが彼の姿は見当たらない。
しかし、二人乗りの狭い機内では隠れる場所もあるはずはない。
〈まさかシャトルの外に?〉
ふと思いついた考えのままに外を見る。
すると一番に目に飛び込んできたのはディセンベルの街並みではなく、巨大な人型の機体。
全体的に紅みを帯びたその機体には背中に翼があった。
機械的なその姿には似つかわしくない天使の如き羽根……
触れるとふわっとした感触がしそうだと青年は思う。
その神秘的な姿に目を奪われた青年の視界に小さな影を見つけた。
その紅い機体の胸部辺りの正面に浮かぶ小さな影。
目を凝らし注意して見てみるとそれは人だった。
青みがかった黒髪をなびかせ紅い機体と対面するように空中に浮かぶ―――あれは………アスラン?!
彼だと認識したとたん、シャトルががくっと下がる感覚がした。
「え?……うわああああああぁぁぁっっっ!!!!」
そしてそのままの体制で急降下。
青年だけを乗せたシャトルは真っ逆さまに落ちていく。
〈アスラン………〉
落ちていく瞬間。
目を閉じ、脳裏に浮かんだのはやはりアスランの笑顔だった。
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