無理やり乗せられたシャトルの中、突然頭に響いた音。
未だ聴こえてくるその音は誰かが歌っているかのようで。
その音を聴いているとぼんやりとしてきて何も考えられなくなった。
いや、なにか思い浮かんだことがあった気がする。
が、今は何も思い出せない。
そして今、アスランの目の前には翼をなびかせた紅い巨大な人型の機体がある。
〈なんだ………これは?〉
アスランは無感動にそれを見つめる。
〈ジャス……ティス?それがお前の名か?〉
自然と感じた目の前のものの名。
それは直感的といってもいいような感覚だった。
「ジャ…ス…ティ…ス………」
小さく唇を動かし、うわ言のようにその名を呟いてみる。
すると、それに反応したのかジャスティスの胸部がその部分を中心に丸く光輝きだした。
〈そうか……俺を呼んでいたのはおまえか。〉
輝く光はアスランをその中へ誘っているようだ。
それを感じたアスランは、誘われるがままに空中に浮かぶ己の身体を光の中へ預ける。
まるで温かな腕に抱き寄せられているようなやさしい感覚だった。
「くそっ…くそっ…くそっ…くそぉ!!!」
どうしようもならないこの憤りをどうにかしたくてイザークはコクピットの計器を乱暴に叩きまくった。
機体のあちこちに攻撃を受け、大破した今では計器を叩きまくったところで何が起こるでもない。
正体不明の不気味な敵。
目の前で無残にも散っていった仲間たち。
最新鋭の機体を与えられながらも敵には歯もたたなかった自分。
その空しさと悔しさにイザークは我慢ならず、目の前のコクピットに当り散らしていた。
「おい、イザーク。落ち着けよ。」
スピーカーから雑音混じりに呆れを半分滲ませた声がきこえてきた。
「ディアッカ?!生きていたのか!!」
「まあ、なんとかね…。」
そうはいったものの、ディアッカは掠れて苦しそうな声だった。
どこか負傷したのだろうか。
それでもイザークは生きていてくれたことに感謝し、ほっと胸を撫で下ろす。
イザークは自分以外に生存者はいないのかと思っていた。
それほど凄まじい戦闘だった。
「…それよりイザーク、ここから脱出しよう。今回は敵の陽動が目的だ。けっこう時間も稼げたし、ヒビキ特尉もうまくやってるんじゃないか。それに…あちらさんもけっこうな被害でてるみたいだしな。」
「そうだな……。」
ディアッカの最後の言葉を受けて、イザークは下の街並みを凝視した。
いくつかのビルは倒壊し、煙を上げている。
道路には流れ弾を受け、その衝撃でひっくり返っている自動車が目に付く。
それを見ると、イザークはいたたまれない気になった。
Dジュピター―――――。
ディセンベル市を取り込むようにできた木星に似るその巨大な球体はいつしかそう呼ばれるようになった。
その内部は今までどうなっているのか解らず仕舞いでずっと謎に包まれていた。
しかもプラントはDジュピターが現れて以来、正体不明の不気味な敵――ドーレムに襲撃を受けている。
その被害は甚大で、地球を失った人類には逃げ場もなく成す術も無かった。
今のこの状況を打破すべく対ドーレムとして組織されたザフトを中心に、今回プラントはその内部に侵入するという大胆作戦に踏み切った。
ずっと研究中だった最新鋭機が完成したということが今回の作戦を後押ししたのだろう。
特にその最新鋭機が先日襲ってきたドーレムを撃退したということは一番の要因だった。
今イザークが乗っている機体――ジュエルがその機体の一つだ。
今回の陽動作戦の前、イザークはDジュピターの内部について個人的な想像をしていた。
取り込まれたディセンベルの街並みは破壊しつくされ、そこに生きていた者たちは全て死に絶えている……
そんな恐ろしい街と化したような想像しか浮かばなかった。
それがいざ中に入ってみると、自分たちの住むプラントとなんら変わりの無い、むしろDジュピターができる以前のままの風景が広がっていた。
その光景にイザークは呆気にとられた。
それだけに自分たちの襲撃によって破壊された街並みを見ると、胸がちくりと痛んだ。
アスランがジャスティスという機体の中に入ったとたん、まどろんでいた感覚から急に正気に戻されたような――例えば安眠から乱暴に覚醒をうながされたような不快感に襲われた。
〈なん…だ……?〉
アスランはくらくらする頭を片手で軽く支えながらあたりを見回した。
すると、目の前に澄み切った青空と神聖な神殿を思わせる崩れかけた柱や壁が己を取り囲むようにあるのが窺えた。
そしてそれらに呼応するように地面には水が湧き水の如くめぐらされている。
しかし1つひっかかる点がある。
その風景は自分がいる位置よりも下のほうにあるということだ。
つまりそれは自分が高い位置にいるということで………
とにかくここはどこだろうとアスランが不審にに思った直後、またしてもアスランの頭に衝撃が走った。
緑など1つも無く、砂漠が果てしなく続く大地。
あびるとたちまち全身火傷をしてしまいそうなほど照りつける太陽。
時折吹く風は大地を叩きつけているようだ。
青さを忘れてしまったくらいどす黒い海。
その水は明らかに有害物質が混ざっていることがわかるような異臭を放っている。
それらがかつて人が築き上げ、住んでいただろう街に大量に押し寄せている。
その建物はすでに荒廃しきっており、倒壊寸前だった。
正に地獄絵………。
そんなイメージがアスランの頭の中に一度にどっと流れ込んできた。
息を継ぐ暇も無く流れ込んでくるイメージにとっさに両手で頭を抱える。
「うぁ………あぁ……ああああぁぁぁぁ!!!」
呼吸が以上に速い。
心臓もそのまま裂けてしまうのではないかというくらいに動いている。
見開かれきった目は軽く痙攣していた。
その様子は激しい発作に見舞われたかのようだった。
〈やめてくれ……俺はこんなもの……………見たくない!!〉
「……スラン………アスラン…………アスラン!!!」
その時、己を呼ぶ声と共に一筋の光が射した。
〈………キラ?〉
己を呼ぶ声がキラのものだと思った瞬間、今までアスランを襲っていたイメージが一瞬の間に消え去った。
しかし呼吸はまだ荒い。
やっと開放されたことに安堵しながら、未だ己を呼ぶ声のほうへと視線を向けた。
〈あの人は……〉
そこでアスランは自分を連れ出したあの青年が己の名を呼びながら柱や壁を階段代わりに伝いながらこちらへ向かっている姿を見た。
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