長く続く歩道の脇に沿って植えられている桜が、見事に咲き誇っている。
ゆるく頬を掠める風に乗って、桜の花びらが舞っている。
まるで粉雪のようだ。
絶えることがない。




「泣くなよ、キラ。」

しょうがないなと苦笑交じりに彼がいった。

「次の休みにはまた帰ってくるから。それともキラがこっちに来るか?キラはプラント、行ったことないんだろ?
俺が案内してやるよ。」

そう言うと、彼は微笑んだ。
その微笑みは、暗に大丈夫だよと言っているようで嬉しかった。
なのに僕の顔は泣きはらして目元が赤くなっている――――。
嗚咽を堪えながら泣いていると、ふわっと空気が動く感じがした。
そして気づいたときには彼が僕を抱きしめていた。
同時に僕の頭をぽんぽんとなだめるようにやさしく叩く。

「しょうがないな、キラは。」

そう言った彼の顔はきっと、すこし呆れながらも笑っているのだろう。
僕がわがままを言ってもしょうがないなと聞いてくれる、そんなアスランが好きだった。
笑った顔も、怒った顔も、すこし疲れたような顔も全部。
いや、彼という存在全てが愛おしいのだ。
彼の匂いに包まれてそんなことを考えていると、ずっとこうしていたくなる。
この時が永遠に続いて欲しいと考えてしまう。
離れたくない。
どうしてそんなことを思ってしまうのだろう。
住む場所は違ってしまっても、会えなくなるわけではない。
頭ではわかっていても、次々とあふれてくる感情は、どうしようもなかった。





桜と君と僕と―――――頭の中で流れているのは、君が好きなあの曲。
全ては、夢みごこちに……

















1年後―――



「キラ!大変よ!!」


切羽詰ったような母の声。
いつもおっとりとしている母が、こんなに慌てているのは珍しい。
胸騒ぎがして足早に自室からリビングへ向かう。

「どうしたの?母さん。」

「アスラン君が、アスラン君が……」

顔を蒼白にしテレビを凝視したままそう呟く母につられて、僕もテレビを見た。

「ディセンベル市に突如現れた謎の結界のようなものは、市全体をその中に取り込み今も存在し続けています。
 生存者などはまだ確認されておりません。なお、市の機関や一般回線も含め、全ての連絡が途絶えています。現在、総力を上げて原因を………」

…ディセンベル市
そこは今アスランが住んでいる場所だ。
砂時計型のプラントが映るはずのテレビの画面には、オレンジがかった球状の惑星のようなものが映し出されている。
その周りには破壊されたプラントが漂っている。
"生存者は確認されていない"―――
その言葉が頭の中にめぐっている。



「アスラン…」
急に体が冷えていくような感覚に襲われる。

「アスラン…」
心臓の鼓動がやけにうるさい。
込みあげてきた涙で視界が歪む。

「アスラン…」
ふっと足の力が抜けてその場に座り込んでしまった。
様子がおかしいのに気づいた母が声をかけるが気づかない。


「アスラン、アスラン、アスラン、アスラン…」
頭を振りながらただ彼の名を呟く。
止まらない。

「アスラン!!!!!!!」
堪えきれず叫んだ声だけが空しく響いた。




C.E.70、14歳の時の事だった。

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